- ヒーター活用例
プラスチック加工現場の今(1) 射出成形機と熱放出
2023年11月22日
松本 英嗣
私たちが使っている日用品の多くはプラスチックが使われています。雑貨、おもちゃ、家電、文房具など、挙げたらきりがありません。こうしたプラスチック製品を作るには、射出成形機という産業用の機械を使います。
今、プラスチックを加工したり組み立てたりする現場では、ある悩みを抱えています。それは、射出成形機からの放出熱です。聞くところによると、採算や現場環境に大きな影響をもたらしているというのです。
そこで、プラスチック加工現場で抱えている課題を紹介しながら、弊社がどのような取り組みをしているのかを3回にわたって紹介します。第1回は、プラスチックの加工に欠かせない射出成形機からの放出熱がもたらす影響について取りあげます。
プラスチック製品を作るのに欠かせない射出成形機
まずは、プラスチック製品の分野に詳しくない人にも理解してもらえるよう、プラスチック加工の基本についておおざっぱに紹介します。
プラスチック製品を作るには、射出成形という技術を用います。簡単に説明すると、合成樹脂などプラスチックの原料となる固形材料を熱で溶かして金型に流し込み、固まったら取り出すという製法です。
文章で説明するより、CGアニメーションを見るほうがわかりやすいです。
この一連の工程を担うのが射出成形機です。基本的な仕組みは、ホッパーと呼ばれる逆円錐型の容器に粒状(ペレット)のプラスチック原料と色づけの固形材料をいっしょに入れて、筒状のシリンダーへ送ります。このシリンダーの中で2つの材料を溶かして液状にし、金型へ押し込みます。固化したところで金型から取り出すと、プラスチック製品のできあがりです。
古い映像ですが、射出成形機による一連の工程をを解説した動画があります。これを見ると作業の流れがよくわかります。
現在は、完成品をロボットアームで取り出して箱詰めしたりなど、作業員の手間を省けるようシステムが自動化されています。しかしながら、射出成形は熟練の技能を要する奥深い仕事です。
射出成形機での加熱が経費や作業環境に深刻な問題
町工場など、射出成形機を使ってプラスチック製品を加工する作業現場では、ある問題に直面しています。その要因となっているのが、射出成形機から放出される熱です。
射出成形機でプラスチック加工をする際、ヒーターで加熱する工程が2つあります。ひとつはホッパーに入れた原材料の乾燥で、もうひとつはシリンダー内での原材料の溶解です。前者は、水分を取り除くためで、さほど高温で加熱する必要はありません。後者は、シリンダー内部で200度から240度の高温で加熱をします。
これら2つの工程で出る熱はどちらも外部に放出します。今、この放出熱が深刻な問題となっているのです。
問題のひとつは、射出成形機の稼働に伴う電気代です。相次ぐ電気料金の値上げは工場の経営に影響を与えています。特に、シリンダー内のヒーター加熱は高温にするため消費電力が大きく、経費がかさみます。価格転嫁ができない事情から、利益を維持するには生産にかかる経費を抑えていかなければなりません。このまま電気料金の高騰が続けば採算にも影響します。
もうひとつの問題は、放熱による室内温度の上昇と作業員の健康への影響です。近年の気候変動で、夏は気温が30度を超える日が何日も続くようになりました。そのため、外だけでなく屋内でも熱中症に気をつけるよう呼びかけられています。射出成形機のある作業現場では、夏になるとヒーターの放出熱で室内の温度が著しく上昇します。すると、作業員は暑さで健康を損ねるだけでなく、熱中症になる可能性も高まります。対策としてエアコンの温度設定を低くして室内を涼しくしなければなりません。当然、冷房のための電気代もかかることになってしまいます。作業員の健康と現場環境の維持にはエアコンの使用は不可欠で、電気代がかかっても背に腹は代えられないのが実状です。
このように、放出熱が経費削減と作業現場の環境維持の両立を阻んでいるのです。射出成形機を複数台稼働させている工場では大きなジレンマを抱えているといいます。
問題解決の救世主は断熱ジャケット
弊社では、プラスチック加工現場が抱えている射出成形機から放出される熱の悩みを解決したいと強い意欲をもっています。その解決策として、ヒーターによる熱を外に出さないようにするのが最善策と考えています。
熱を外に出さないようにすることで、次の効果が得られます。
1. 加熱のための電力消費を抑制
熱を内部に閉じ込められれば、ヒーターの加熱動作を軽減できます。したがって、加熱のための消費電力が少なくなり、電気代の節約につながります。
2. 室内の温度上昇を抑え、冷房の電力消費を削減
ヒーターの放出熱を外に出さないようにできれば、室内の温度上昇を抑えられます。その結果、作業員が夏に熱中症になるような事態を防げます。また、放出熱によりエアコンの設定温度を低めにしていたのを緩和でき、冷房にかかる電気代の節約もできます。
これら2つを実現する救世主が断熱ジャケットです。
断熱ジャケットは、加熱している部分に被せたり巻き付けることで、放出熱を外部に漏らさないようにできる断熱材です。これを、ホッパーやシリンダーに取り付けることで、外への熱放出を抑えます。実際にシリンダーへ取り付けるとこのようになります。
弊社製の断熱ジャケットを使用すると、室内に放出される熱が体感で少なくなり、電気代の節約ができているといいます。
次回は、断熱ジャケットについて詳しく説明します。
- 松本 英嗣
- 「熱のエキスパート」 お客さまが抱えている熱問題を解決することが私たちの使命です。全国どこでも駆けつけます。これがスリーハイスタイル。