- ヒーター活用例
新開発のIBC用ヒーター、独自の工夫で世界に挑む
2024年11月22日
松本 英嗣
弊社は、熱を扱う新製品の開発にも力を入れています。その新製品には、海外での販売を強く意識しています。今回、海外で広く使われている液体や油脂などの搬送に用いられるIBCと呼ばれるコンテナ容器に取り付けて、中身を固化させずに輸送できるIBC用ヒーターを開発しました。一見すると単純な保温ヒーターに見えますが、実用性を高めた独自の工夫を凝らしています。
国内では開発事例が少なく、特に東南アジアでは重宝されるであろう弊社開発のIBC用ヒーターについて、経緯を交えながら紹介します。
液体貯蔵や輸送、日本ではドラム缶、海外ではIBC
大量の液体を貯蔵したり運搬するとき、私たちは円筒形のドラム缶を頭に思い浮かべるのではないでしょうか。背景や経緯は明確ではありませんが、日本では古くから液体を入れる容器といえばドラム缶というのが一般的です。
一方、海外では日本ほどドラム缶は浸透していません。代わりに、IBCとよばれるポリエチレン製のコンテナ容器が使われています。IBCとは、Intermediate Bulk Containerの略称で、IBC、またはバルクコンテナなどと呼ばれています。形状は直方体で、1トン(1000リットル)の液体を入れることができます。上部に液体注入口、下部に排出口がついています。底部にはフォークリフトやハンドリフターで運搬できるよう昇降機を差し込める溝があり、床に並べたり積み上げたりすることも容易です。
IBCは国内でも販売されていて、新品、中古品いずれも簡単に調達できます。大きさは製品仕様により若干の違いはありますが、典型的なもので1000リットル容器の場合、幅1メートル、高さ1.15メートル、奥行き1.2メートルほどです。
液体や油脂を固化させずに搬送できる安心のIBC用ヒーターがない
IBCは主に、原材料や薬品などの貯蔵のほかに、船舶で海外から輸入する際の容器として使われています。収容物は、化学薬品や農薬、食品用の油脂などです。
船舶でIBCを使った輸送には、重要な注意点があります。容器内の中身が固化しないよう液状を保ったまま運搬しなければなりません。コンテナ船による輸送の際、航路によっては氷点下になる海域を通過する場合があります。その間に中身が固まってしまうと、到着後に収容した液体を排出口から取り出すのが困難になります。そればかりか、固化により質が落ちてしまうおそれもあります。さらに、排出口が凍結していれば、解凍作業を強いられる場合もあります。
こうした状況を防ぐには、輸送前にIBCの側面にヒーターを取り付けて容器内を温めておく必要があります。方法として、船舶への積載前にあらかじめヒータを作動させてIBC内部を温めます。そして、積載作業に入るときにヒーターをとめて、余熱で中身の液状を保持させます。船が港に着いてIBCが荷下ろしされた後、必要に応じて車両での運搬待ちまで再びヒーターでIBCを温めます。
※ 船舶での輸送中にヒーターを動作させることは基本的にできません。ヒーターを使うための電源確保が難しいためです。また、仮に電源確保ができても、船舶の安全航行に配慮して電源の使用は避けなければなりません
IBCを温めるには専用の電気ヒーターを使うのが一般的です。ところが、現在市販されているIBC用ヒーターは、安心して使える製品がないというのです。代表的なIBC用ヒーターとしてはデンマーク製がありますが、使用中に断線しやすいなど、品質の信頼性がさほど高くないという問題点があります。
IBC用ヒーターの輸入を取り扱っている日本の商社はこの問題に頭を悩ませていて、断線などで使えなくなったという顧客からの問い合わせがあるたび、修理や新品の取り寄せに時間と手間がかかる難点を抱えています。商社の担当者は、日本国内で安心・安全なIBC用ヒーターの製造・販売があればありがたいといいます。とはいうものの、国内でIBC用ヒーターを製造している企業は見当たらず、苦慮しているのだそうです。
弊社はヒーター製品の製造には長年の実績があり、海外での販売に力を入れています。商社からの話を受け、それなら私たちが手がけようではないかと社内で検討した結果、IBCヒーターの開発に踏み切りました。
取り外し可能な平板ヒーターで利便性を向上
既製のIBCヒーターは、側面に巻き付けて使用する帯状のジャケット型を採用しています。帯状ヒーターは、軽量な長所がある半面、一人で巻き付け作業ができないのが短所です。一人が片方の端を持ち、もう一人がIBCを一周して巻き付け、最後に固定しなければなりません。
そこで弊社は、一人で取り付け作業ができるように、側面ごとに取り付ける平板型のヒーターを製作しました。IBCにはもともと、側面に金属でできた格子状の囲いがついています。そこに、平板ヒーターを引っ掛けて固定できるよう、背面にフックをつけてあります。この工夫により、平板ヒーターを一人で持ち上げて取り付けることができ、帯状ヒーターのように複数人で取り付け作業をするわずらわしさをなくしました。
平板型を採用したのにはもう一つ理由があります。帯状ヒーターは、内部のどこかが断線してしまうと加熱することができません。修理不能で新品に買い替えとなれば経費負担がかかります。これに対して平板型の場合、故障した平板ヒーターのみを取り替えるだけですみます。取次店に依頼すれば短時間で代替品を調達でき、本体すべてを買い替えずに済むので経費も抑えられます。
この平板型ヒーターは筐体が金属製のため、一面につき10キログラムほどの重量があります。そこで軽量化を図るため、既存の帯状ヒーターと同じ合成化学素材を使用し、軽量と取り付けやすさを兼ね備えた両者いいとこ取りの平板型ジャケットヒーターも開発しました。構造は平板型と同じ側面取り付け式で、加熱用のヒーター線と断熱用のガラス繊維を合成化学素材でできたジャケットの中に入れ込んであります。IBCの各側面に平板ジャケットをフックで取り付け、電源供給用のケーブルを直列に接続して使用します。
平板ジャケットヒーターは断熱材が入っているため外への熱放出を防ぐことができます。これにより、保温力を高めるだけでなく、加熱にかかる消費電力を抑えられます。
弊社では、金属筐体とジャケットの2つの平板型IBCヒーターを販売できるよう準備を進めているところです。今回開発したIBCヒーターの詳細な仕様については、次のPDFカタログに記載してあります。ぜひご覧ください。
海外で通用する新製品の開発はヒーターの可能性を拓く
数年前から弊社は、自社ヒーター製品の販路を海外に向け、東南アジアを中心に展開させています。その一環として、タイやベトナムで開催の国際展示会に出展し、売り込みに力を入れています。
展示会で現地の人と商談をしていて思うことは、現在製造・販売している自社ヒーター製品が、どこかニーズに合致していないのか、あるいは、どこか海外では通用していないのか、手応えが薄いことにもどかしさを抱いていました。たとえば、タイのモノ作り現場では温水式のヒーターが多く使われていてシリコンラバーヒーターなどの電気式のヒーターの認知度が日本と比べて低く、思ったように興味を示してくれないなどです。
海外展開する以上、もっと現地の工場で求められるヒーター製品を作りたいという思いがありました。それを叶える絶好のチャンス到来と、IBCに着目した独自のヒーターを作り上げました。東南アジアの工場では、加工食品の原材料や、産業機器製造に必要な化学薬品を運ぶのにIBCを使っていて、輸送中の固化を防ぎたい要望があります。今回開発したIBCヒーターはこの要望に応えられ、海外でも通用するヒーター製品をようやく作ることができたと手応えを感じています。
また、IBCの市場規模も上昇しています。市場調査会社の調査・分析によれば、2024年から5年後の2029年には4%を超える成長率が見込まれています。
参考:中間バルクコンテナ市場規模と市場規模株式分析 - 成長傾向と成長傾向予測 (2024 ~ 2029 年) (Mordor Intelligence)
今後は、国内外の展示会でIBCヒーターの売り込みを積極的に取り組んでいきます。あわせて、IBCとのセット販売もしていきたいと考えています。すぐにでも実物を見てみたい方は、ぜひ弊社ショールーム「DEN」へお越しくださいませ。担当者が詳しくご説明いたします。
- 松本 英嗣
- 「熱のエキスパート」 お客さまが抱えている熱問題を解決することが私たちの使命です。全国どこでも駆けつけます。これがスリーハイスタイル。