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「150対1」からの再生に学ぶ、事業承継の"人間ドラマ"

10月7日、東京中小企業投資育成株式会社 札幌事務所で開催された講演会に参加いたしました。登壇されたのは、株式会社ランナーズの関根社長。テーマは「事業承継の成功と落とし穴」です。私自身も事業継承の経験を経て今に至っており、関根社長のお話は自身の体験にもつながる興味深いテーマでありました。

株式会社ランナーズの関根社長

この講演をより深く理解するために、まずランナーズについても簡単にご紹介します。
ランナーズ(runs.co.jp)は、経営幹部の育成や後継者支援に特化した企業です。社長就任前から、就任後、さらには中規模企業の幹部育成まで、実務的なスキル習得を目的としたプログラムを提供しています。
特に「社長の実務アカデミー」というカリキュラムでは、経営者が実際に使うべき118項目の観察ポイントや119項目の実務技能を演習形式で学べる体制を整えており、理論と実践の融合を重視しているのが特徴です。関根社長は、長年の経営実務をベースに、現場で役立つノウハウを体系化してきた実績があります。
こうしたバックグラウンドをもつランナーズだからこそ、関根社長の講演には「ただの理屈」ではない、重みと説得力がありました。
関根社長は、マイクロソフトでのキャリアを経て家業に戻り、突如任されたのは営業赤字1億8,000万円の巨大ホテルの再建。
社員150人が敵に回るという、まさに「150対1」の孤独な戦いだったそうです。
挨拶をしても無視され、靴を隠される嫌がらせを受ける日々。それでも、利益を生み出す仕組みづくりに挑み続けました。

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関根社長の転機と学び

そんなある日、清掃パートの女性からかけられた一言が、人生の転機になったそうです。

「今まであんたがやってたところ全部見てるからね。これからは私が助けますからね。」

その言葉をきっかけに、関根社長は"完璧な後継者"を演じる鎧を脱ぎ、人に頼る勇気を持ったといいます。そこから職場の空気が変わり、雑談を通じて信頼関係が生まれ、ホテルは見事にV字回復を果たしました。しかし、業績が最高潮に達したその瞬間、父親と弟から"緊急動議"で社長を解任されます。

それでも関根社長は、「事業承継の成功は、自身の安泰を意味しない」と語られました。数字の継承よりも、"感情の継承"こそが、後継者に課せられた最大の試練なのだと。

共感と私自身の経験

この話を聞きながら、私は自分自身の事業承継のことを思い出していました。私が父からスリーハイを引き継いだのは2009年。当時はリーマンショックの影響が残り、経営は決して安定していませんでした。それでも、父が築いた会社を守りたい一心で、社長のバトンを受け取りました。

けれども、現実は甘くありませんでした。
若い社長への視線、経験豊富な社員との温度差、資金繰りの不安。"自分が結果を出さなければ"という思いが重くのしかかりました。そして気づけば、私も「後継者の鎧」を身につけていたのです。弱みを見せられず、すべてを自分で抱え込み、完璧を求め続ける日々。

そんな中、ある社員から言われた言葉が今でも忘れられません。

「社長、相談しやすいですね。」

その一言に、肩の力がすっと抜けました。


"
完璧であること"よりも、"誠実であること"の方が大切だと気づいた瞬間でした。そこから、社員との対話を増やし、雑談を大事にするようになりました。経営において、人の想いを温めることこそが、最も重要なのだと感じています。

先代への敬意と理念の原点

関根社長のお話で印象に残ったのは、「先代の"やってほしくないこと"を聞くことの大切さ」です。 事業承継というと、「どう変えるか」「どう伸ばすか」に目が行きがちですが、実は"変えてはいけないこと"を理解することの方が重要だと感じました。

私も、父と何度も意見を交わしました。ときに激しくぶつかることもありましたが、今思えば、そのひとつひとつが愛情の裏返しでした。
父は口数の少ない人でしたが、常に社員を大切にし、お客様に誠実でした。
その姿勢こそが、スリーハイの根っこにある「ものを想う。ひとを想う。」という理念の原点です。

学びの整理と実践への意欲

関根社長が示された「明日から実践できる3つの行動」は、シンプルながらも深い気づきを与えてくれました。

  1. 先代の「やってほしくないことリスト」をつくる。
     事業承継は、思い込みではなく"聞く"ことから始まる。
  2. 流行りの理論よりも、自社の「ヒト・モノ・カネ・情報」を見直す。
     経営の基盤は現場にある。日々の数字と人の声をしっかり見つめる。
  3. 会議室を出て、現場で"雑談"する時間をつくる。
     雑談は、信頼を育てる最高の経営ツール。心の距離が会社の温度を変える。

私自身も、昼休みに社員と交わす何気ない会話から、大切な気づきを得ることがあります。
経営とは、結局"日常をどう大切にするか"に尽きるのだと思います。

聴講を終えて

講演を終えて外に出ると、札幌の冷たい風が心地よく頬を撫でていました。ふと空を見上げると、澄んだ夜空に月が浮かんでいました。事業承継とは、孤独な戦いのようでいて、実は"想いを受け継ぐリレー"なのだと感じました。

父が築き、社員が守り、私が今、次の世代へとつなげていく。
その責任の重さとともに、温かい誇りが胸に広がりました。

今日学んだのは、経営とは理論ではなく、人を想うこと。
そしてその想いが、会社の温度を決めていくのだと思います。

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